物語を紡ぐ場所

ちびちび妄想を綴っていきます。                                   尚、「物語を紡ぐ場所」はブログ名で、カテゴリーが作品名です。カテゴリー(作品名)をクリックで始めから読めます。

#10 忍び寄る影。

仙狐九尾会

 よほど日頃の鬱憤が溜まっていたのか、ルーシーは同僚であり先輩である他の九尾会尾席メンバーへの愚痴を零し続けていた。
 愚痴なんか聞かされても楽しくなし、ましてやその内容は権力者の悪口である。場合によっては、とばっちりで私にも身の危険が及びかねないので、とっとと退散して然るべきである。
 しかしながら私はそれを保留してしまった。
 理由は多々ある。
 まず、きっかけという点において原因の一端が私にあると言えなくもないという事。僅かとはいえ良心の呵責に苛まれてしまえば判断が鈍るというものだ。
 それにルーシーは傍目に見て、だいぶストレスを溜め込んでいる様子だった。ここで私くらい愚痴に付き合ってガス抜きでもしてやらないと何処かで事切れてしまうのではないか、という心配を懐いてしまったのも一因だ。
 加えて、幸か不幸か、当初心配した密告の恐れが余り感じられなかった事が油断を生んだ。おそらくこの手の苦労というのが九尾会で働く者の共通認識なのだろう。周囲にいる狐たちの殆どが、愚痴るルーシーを時折憐れむように目を向けてはウンウンと深く頷くといった様子で共感や同情を醸し出しており、そこから生じる「周りは皆仲間」という妙な一体感に惑わされてしまったのだ。
 本当……理由は多々あって……この結果は仕方のない事だったのかもしれない―――。
 でもね……この状況に陥ってみると……やはり後悔せずにはいられないの―――。
 ……己の浅はかさを―――。



 諸々の事情からルーシーの愚痴に耳を傾けていた私。そんな私が異変に気付いたのは二杯目の玉露を飲み干そうとしている時だった。
 いつ終わるともわからない、罵詈雑言とまではいかないまでもそれに近い語句の並ぶ愚痴に少し飽き始めていた私は、何となく隣の席に目を向けた。
 隣の丸テーブルにはどこぞの部署の仲間内らしき三匹の狐がテーブルを囲うように座っていたのだが、その内の一匹の三角獣耳がピクリと僅かに動くのに気が付いた。「おやっ」と思いそのまま見ていると、その狐の顔色が瞬く間に青白くなっていく。その狐はある一方向に視線を向けたまま小刻みに震えながら金縛りにでもあったかのように固まっていた。
 私は不審を懐き、その狐が見据える先に自らの視線を移してみる。すると、どうだろう。私もその狐と同様に全身を硬直させてしまったのだ。
 その狐が見据えた先、そして私が視線を移した先はルーシーの後方数メートルの場所。テーブルとテーブルの間で、唯の通路である。通常であればそんな所をみたところで、何がどうなることもない。
 だが私は硬直してしまった。
 驚愕し、恐怖したのだ。
 なぜならいつの間にか其処に居てはならないきつn……御方が居られたからだ。
 おそらく隣のテーブルの狐が萎縮したのも私と同様にその御方が原因だろう。その証拠に、私や隣テーブルの狐と似たような反応を見せる狐たちがみるみる周囲に増えていっていた。
 これは拙い。
 危機を察した私はすぐさまルーシーにその旨を伝えようとした。その御方がいるのはルーシーの後方。ルーシーからすれば完全に死角であり、彼女は気付けない。実際、ルーシーは静かにざわつく周囲の狐たちとは対照的に、全く気付いた素振りを見せず饒舌に愚痴り続けていた。この状況……今更感は拭えないが……どうにか被害を最小限に抑えてやろうと思うのが同伴者の人情であろう。
 ―――が、しかし。
 私がルーシーに声を掛けようとした矢先である。あろうことか、その御方と目があってしまった。
「ひぃうっ!?」
 私はまるで蛇に睨まれた蛙が如く寸分たりとも動けなくなった。
 そんな私にその御方は、そっと人差し指を自らの唇の前で立て「何も言うな」とのジェスチャーを見せると、ニッコリと微笑みかけてきた。
 私は背筋を震わせながら小刻みに首を縦に振る。選択の余地はなかった。
 かくして気付かず気付けぬルーシーの背後にその御方が歩み寄ってくる。私は冷や汗混じりに只々それを見守る事しか出来なかった。
 その御方がルーシーのすぐ後ろまで到達した時、私の顔はよほど不自然に引き攣っていたのだろう。漸くにして異変の片鱗に気付けたルーシーが愚痴りを一時中断して怪訝そうに訊ねてきた。
「ちょっと風狸……なによ、その不細工な顔? 下痢?」
 一部尊厳を傷付けられる言葉を含んでいたのにも拘らず、私はその問いに何も答えなかった……いや、答えられなかった。既に口止めされてしまっていたからだ。
 代わりにルーシーの背後で仁王立ちしたその御方が口を開いた。
「こらこら、ここは食堂やよ。言葉には気つけなあかんで、ルーシーちゃん」
 それは京訛りがまじるおっとりとした声。一聴して安らぎすら覚えそうに思えるものだったが、私を含め周囲の者は皆一様に固唾を飲んで恐々としていた。
 では声を掛けられた当人、ルーシーはというと―――。
「#$▲&@※○≒$&%………」
 声にもならぬ怪音を口から垂れ流しながら、振り返る事すら出来ぬほどにカタカタと震えながら、その身を硬直させていた。



つづく。
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#9 八尾の威厳。

仙狐九尾会

 ルーシーは嘆いていた。
 自分はベテラン尾席と張り合わなければならない、と。
 ルーシーは怒っていた。
 その為に浪費しているのだ、と。


 そして、詰め寄られた私は―――――


「は、張り合わなければよくない……?」
 困惑しながら逃げ腰でそう言い返した。
 するとルーシーはすかさず追いすがるようにして、
「そういうわけにはいかないの! 尾席としての威厳に関わるんだもの!!」と鼻先まで得も言われぬ険しい形相で言い寄って来る。
 ルーシー!? 顔、近い、近い!!
「他と張り合ったところで威厳なんか得られないでしょ」
 私はほとんどテーブルに乗り上がっていたルーシーの体を両手で押し返す。
 しかし、
「んなこたぁー解ってるわよ!」
 ルーシーは押し返した私の手を振り払い、再び迫り寄って、
「でもね、私の威厳って他の尾席(奴ら)と張り合っていないと減るのよ! 解る? 減るの!!」
 ルーシーの気迫に押し負け抗うことを諦めた私は、逃げ腰のまま投げやりに訊く。
「そ……そうなの?」と。
 鼻息荒くルーシーが答える。
「そうよ! だって他の尾席(奴ら)がランチだの、酒の席だので事ある毎にポケットマネーをバラ撒いて狐たちを懐柔してるんですもの!」
 それ、ただ羽振りがいいだけで懐柔しているわけじゃ……との思いは置いといて、
「そ……それと威厳とどう繋がるの?」
 すると、ルーシーが険しい口調で、
「そんな場面に居合わせた時にあたしが財布を取り出さなかったらどうなるか、って事よ」
「えっと……つまり?」
「鈍いわね、いい? すぐに『八尾のルーシーってドケチだよね』とか『うわぁー、今回、八尾しか居ないのかよ、マジはずれだわ』って陰口を叩かれ始めるのよ! 威厳なんか見る見るうちに失われていくわ。っていうか、あたし八尾よ、狐界最高権力の一角よ。なのに呼び捨てってどういう事!? 大体、陰口なんだから本人の耳に届かないところでしなさいよ、バッチリ聞こえてるっての! 聞き耳立てるべくもなく聞こえてるっての!!」
 途中から誰へとも解らぬ唯の愚痴を零し始めた血眼のルーシー。苦労の程は窺えるが……正直、私に言われても対応に困る。
 ともあれ……世知辛いな、狐界。
 私が苦笑いを零していると、
「そもそも他の尾席(奴ら)も奴らよ! 可愛い後輩が居るんだから、気使ってちっとは自重しろっての!」
 未だ収まりがつかないのか、はたまた一度始めてしまったが故か、ルーシーは遂にその怒りの矛先を直接九尾会の同僚へと向け始めた。
「ちょっとルーシー、食堂(ここ)で余りそういう事言わない方が……」
 愚痴の矛先が狐界の最高権力へと向けられたのなら、ここいらで諌めておいた方が良いだろう。九尾会は形式上でこそお互いに平等という事になっているが、実際はルーシーが自らを(可愛いかどうかは別にして)後輩と呼ぶように、序列が無いというわけではない。如何に同じ尾席と言えど、この手の愚痴が他の尾席の耳に入った場合、序列最後尾のルーシーが一体どんな仕打ちを受けるはめになるのやら、分かったものではない。一応、因縁浅からぬ狸として、放っては置けないのだ。
 しかしながら、そんな私の気遣いとは裏腹に、ルーシーは愚痴を止めようとはしなかった。
「構わないわよ、どうせあの爺婆共がこんな食堂(庶民的な場所)に顔出す事なんてないんだから。金持ちはいつも優雅に外食よ。アンタだって、食堂(ここ)であたし以外の尾席見た事ないでしょ?」
「ん、まあ……そうだけど……でも――」
 私はチラチラと周囲に目を向ける。本人達はいなくとも、情報を届ける者は幾らでもいるでしょうに。
 それでもルーシーは動じなかった。そればかりか自信あり気に、
「大〜丈夫よ。そうならないために日頃から無理して金バラ撒いて威厳と人望を保っているんだから」

 ルーシー……たぶん、その威厳と人望は当てにならないよ。



つづく。

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#8 ランチタイムにて。

仙狐九尾会

 狐とて、生きていれば皆お腹が空く。然るに、ここ仙孤九尾会本部には職務に従事する狐たちのために食堂が併設されている。腕の良い料理人を雇っているらしく味の方は折り紙つき、しかも職員プライスがありリーズナブルに食べられるという事で、狐たちからはかなり重宝されている施設である。
 かくいう狸な私もここの常連でファンであった。


「いや〜、美味しかった〜♪」
 ここ九尾会本部にある食堂で食べるランチは何度食べても飽きないほどに高水準だが、本日はいつにも増して旨かった。
 それもそのはずだ。
 何せ食べたのが、安さが売りの本部食堂に於いて、一食九千円もする『豪華絢爛スペシャルきつねランチセット!(要予約)』という普段では絶対に手を出さない高級メニューなのだから。テレビや雑誌でしか見たことのない高級食材の数々で彩られていたランチセットは、その名に違わぬ絶品で美味。しかも私自身は一銭も払わず、無料(タダ)同然で食べられたとあっては、賞賛はいくら有っても、文句などはつけようがなかった。ま、所謂、他人の金で食べる高い飯は旨い、と言うやつだ。
「うぅ……アンタ、本当にこれでお姉様には黙っていてくれるんでしょうね?」
 テーブルを挟んだ向かい席で恨めしそうに財布を見つめながら、消え入りそうな声で嘆いていたのはルーシー、今日のランチのスポンサーだ。監視疑惑の際に散々私をいびり倒していた彼女は、その愚行を愛しのお姉様に告げ口させぬよう、私に交渉を持ち掛けて来た。その顛末の姿であった。
「安心してよ、狸に二言は無いから」
 私は悠然とそう言って、熱々の玉露を慎重に啜った。
「本当に本当でしょうね? ランチにこんな大金払わせておいて、もし嘘だったら詐欺罪で訴えるからね」
 ルーシーの目尻には微かに光るものが滲んでいた。だいぶ今回の出費が痛手だったようだ。
 とは言え、一応ルーシーは重役に就く狐である。そこまで狼狽えることもなかろうに。
「だから、そう言っているじゃん。っていうか、ルーシーは代行の私と違って、正真正銘の尾席でしょ。相応の収入があるんだから、たかだか九千円程度で私を詐欺師に仕立て上げようとしないでよね」
 私が呆れてそう言うと、
「バカ言わないで! 相応の立場にある者は、相応の出費を免れないのよ! 駆け出し尾席のあたしは、長年いろいろと溜め込んだ金でのうのうと生きる他の重鎮尾席共と張り合わないといけないの。そのせいで、常に金欠なのよ!!」
 ルーシーが半泣きになりながら猛然とテーブル越しに迫ってきた。
「うわっ!?」
 私はルーシーの思わぬ変容っぷりに驚くと同時に、その気迫に負け、逃げるように身を反らした。

 うーん……どうやら地雷を踏んてしまったらしい――――



つづく。

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#7 狸をいびる狐。

仙狐九尾会

「にゃはははは~、いい気味〜!!!」
 第九席執務室にけたたましい笑い声が響いていた。発信源は仙狐九尾会第八席、私にとって因縁浅からぬフェネック仙孤ルーシーである。彼女が盛大に笑う原因は単純明快であった。先の上司からのメールの一件を耳にしたからだ。
 だからルーシーに言いたくなかったのよ。
 私は肺に溜まった二酸化炭素を大きく吐き出して肩を落とした。
「もう気が済んだでしょ。邪魔だからとっとと出て行ってよ」
 私が不機嫌に言うと、ルーシーはいっそう腹を抱えて笑い転げた。
 マジ、ムカつく。笑い事じゃねぇっつうの!
 私は狸だが、それでもこれまで狐界のために奔走してきたと自負している。例え無理やり押し付けられた役職であったにしても、職務には真摯に向き合ってきたつもりである。もし本当に監視されているのであれば、そんな私に対する裏切り行為に他ならない。
「な〜に言ってるの、裏切りも何もアンタが狸であれば当然じゃない。古今東西、昔から狐と狸は仲悪いんだもの。大体、アンタ元は山奥でお姉様のフリして悪行を重ねていた性悪狸じゃない。寧ろヌルいくらいだわ」
 ルーシーは滲み出た笑い涙を拭いながら楽しそうにそう言った。
 私はムッとして言い返す。
「それはもう大昔の事だよ!」
 因みにルーシーが言うところのお姉様とは私の上司の事である。ルーシーは我が上司をお姉様と呼び異常な程に慕っている。その理由、経緯云々など細かい事に関しては今回は誠に勝手ながら割愛させて頂こうと思う。何せ私にとっては取るに足らない些末な事だからね。
 とにかく今は私の信用問題が重要なのだ。なにせ日々、私は狐界の中枢にて狐のために奮闘しているのだから。
「バカね、狸が狐界の中枢にいるからこそ監視が必要なんじゃない。裏切りは往々にして『なぜコイツが』って奴がするものだけど、『如何にも』な奴にされたら、それは狐の権威に関わってくるのだもの」
 そう言うとルーシーは右拳を胸の前で力強く握りしめながら、「流石はお姉様、わかってらっしゃる!」と感嘆するように言葉を震わせた。
「いや、だったらそもそも『如何にもな奴』を中枢に入れなきゃいいでしょ。私を代行に無理やり推したのは、そのお姉様なんだからね、解ってる?」
 私の異議もなんのその。ルーシーは呆れた様子で嘆息し、
「やっぱりアンタはバカね。今や九尾会はワールドワイドでグローバルなのよ。宿敵である狸をも招き入れる懐の広さを世界にアピールする事で、九尾会のイメージアップを図ろうとしているに決まってるでしょ。流石はお姉さまだわ!」
「そうかなぁ? イメージアップ狙って招き入れたなら、もっと待遇良くてもよくない? 私、毎日馬車馬の如く働かされているよ。これじゃあ、寧ろイメージ悪くならない?」
「それはアンタが余計な事を口にせず黙っていれば済む話でしょ」
 さも当然と言わんばかりにきっぱりと言い切るルーシー。
「え? それじゃ私は労働環境への不満も裏切りにカウントされちゃうの? そこも監視要項? 狸差別もいいとこじゃない? 私の狸権(じんけん)どこ行った?」
「何を今更。初めから九尾会(ここ)は狐のための組織でアンタは狸だと言っているじゃない。そんなもの期待する方が野暮でしょ。もっとこの場所で狸であるという事の意味を理解しなさいな」
 私は愕然と膝をついた。
「な……」
 確かに言われてみれば辻褄が合う……気がする。狸の私が九尾会にいるのはイメージ戦略のためで、ハードワークを強いられているのは狸だから。そして、狸は信用ならないから監視されている……というわけ……か?
「漸く悟ったようね!」
 ルーシーは私の鼻先を突くように指差して言い放つと、
「そうよ、ここ九尾会で狸のアンタに狸権(じんけん)はないの。だって、ここにあるのは狐権(じんけん)だけだもの。身の程を知りなさいな!」
 今度ばかりは如何に狸の尊厳を傷付けられようとも言い返せなかった。それが意味を成さぬ場所にいるのだと、痛感させられてしまったのだから。差別とは平等の下で批判される行為であり、元々平等の下にない者の受けるそれは区別でしかないのだ。
 打ちひしがれる私を見て、再びルーシーがケラケラと笑い出す。
 泣きっ面になんとやらだった。
 そんな折、「ピロリン!」と私のスマートフォンが場違いな音色を奏でた。
 それは『業務連絡②』と銘打たれた、本日二度目の上司からのメールであった。
「あらあら〜、お姉様からのお叱りなんじゃなくって?」
 ルーシーが嬉々として私のスマホ画面を覗き込んでくる。
 本来ならばプライバシーやら機密やらあるので、第三者に覗かれた状態で中身を確認するのは御法度だ。しかしながら傷心しきった今の私にはそれを気に掛ける余裕が無かったため、構わずアイコンをタップする。
 先程同様に件名の後は画面から溢れるように空欄で埋め尽くされていた。
 今度は何を言われるのか……。ウキウキのルーシーを尻目に、私は恐る恐るフリックする。
 …………………………………………………………………………………………………。
 三度ほど指を滑らせて現れた文章はこうだった。


『な~んちゃって ウソぴょん (・ω<)
 さっきのメール驚いた?
 ウソウソ あれウソ(>ω<)
 わらわ風狸のこと信じてるもん✨
 暇だったゆえ ほんの出来心じゃ
 ゆるしてちょんまげ🙏

 by 風狸ちゃんに絶大な信頼を寄せる美少女上司

 p.s.
 九尾会は出来た連中が多いから心配いらんと思うけど、もし風狸を狸だからという理由で迫害するような🦊がおったら、独りで抱え込まずに遠慮なくわらわに報告しろよ〜。
 そんなボケナスはすぐにわらわがフルボッコにしてやるからな〜 (●`・ω・)=O)`-д゜)ポカ』


「………………………………………………」
 読み終わった後、暫し沈黙してから私はゆっくりとルーシーに顔を向ける。ルーシーもルーシーで似たような動作をとっていたのだろう。タイミング良くお互いの目が合った。
 ルーシーはどことなく悲しげな顔で、何かを訴えるような眼差しを私に向けて来ていた。
 さらに沈黙すること約五秒……。
 私は「よし!」と短く言ってスマホ画面の返信アイコンに指を伸ばした。
 直後、得も言えぬ泣き顔のルーシーが「ぎぃやあぁぁ゛〜 ち゛ょっと待ってぇぇぇ゛〜」と悲痛な叫び声をあげながら私に抱きついて来た。


つづく。

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#6 因縁浅からぬ狐。

仙狐九尾会

「ねえ、風狸。アンタ何してんの?」
 上司からの業務連絡で疑心暗鬼に陥った私がオドオドと辺りを見回していると、不意に背後からそんな声をかけられた。
「ほわっ!?」
 私が驚き振り返ると小柄で貧相な体の少女が立っていた。ふっさりとしながらも狐にしては控えめな尻尾を垂らし、大きな三角獣耳をピンと立てた、少しウェーブのかかった明るい栗色の髪のツインテール少女だ。
「なんだルーシーか、脅かさないでよ」
 彼女は第八席のルーシー、フェネックの仙狐だ。現九尾会の中では一番任期が短い新世代の狐で、私と比較的に歳が近い。その為か、何かと衝突する事も多く、私にとって因縁浅からぬ狐である。
「なんだとは何よ。まず何だを先に問たのはあたしでしょうに!」
 因縁浅からぬ狐、第八席のルーシーはさっそく不満気に難癖をつけてきた。
 だが、ルーシーの難癖はいつもの事なので私は動じない。
「あ、そう。で、何か用?」
「って、おい、あたしの質問はスルーかよ!?」
「だってルーシーに話すと、またややこしくなるから」
「何それ、どういう意味? 余計気になるじゃない。いいから教えなさいよ。第八席としての命令よ」
 相変わらずルーシーは面倒くさい狐だ。大体、九尾会の権限を個人のプライベートを暴くために使っちゃダメだろ。職権乱用もいいとこだ……って言っても、たぶんコイツは聞きゃしないだろうな。仕方ないのでこちらも対抗してこう答えた。
「第九席代行として拒否権を発動します」
 目には目を、権限には権限を。私は所詮代行に過ぎないが、それゆえ代行対象である私の上司以外の命令に上司の許可なく従う必要はない。九尾会メンバーが形式上皆平等であるがゆえ、その代行者に与えられている特権なのだ。ふふん、どんなもんよ、この風狸ちゃん、第九席代行として、簡単には権力に屈しないんだからね。
 私にはルーシーの悔しがる顔が目に浮かんで見えていた。
 しかしながら、そんな私の予想を裏切るように、ルーシーが見せたのは驚き眼であった。
「ちょっとアンタそれ職権乱用よ! 代行とは言え、九尾会の権限はアンタが思っている以上に重いのよ。私的流用は九尾会の沽券に関わるんだから慎まないと!」
 毅然として睨みつけてくるルーシー。私は些か気圧されてしまった。だが、落ち着け私。職権乱用はルーシーもしているのだ。私が責められるのだとしたら、それはルーシーにも言えることではないか。
「ちょ、ちょっと待って、ルーシーが今それ言うの!? 今さっき同じ職権乱用していたルーシーが!?」
 ルーシーは呆れた様子で溜め息を漏らした。
「バカね、あたしのはジョークよ、ジョーク。アンタの口を割るとか、くだらない目的のために本気で九尾会の権限なんか使うわけ無いでしょ」
「あ、ずっこい!」と私はすぐさま対抗する。だって私だけ責められる筋合いはないのだから。
「そ、それなら私だって冗談よ、冗談! ルーシーの追求を躱すなんてしょうもない事のために権限を利用しようなんて思うわけ無いでしょ」
 するとルーシーは「へぇー」と疑念に満ちたジト目を向けて来て、
「本当かなー?」
 私は唐突に非ぬ疑惑を向けられ思わず焦燥に駆られ……いや、そんなわけないじゃない。何度も言うけど、私だけ責められる筋合いはないのだもの。だから先のルーシーに負けないくらい毅然と言い返してやったわ。
「あ、当たり前でしょ! ルーシーをからかっただけだよ。ルーシーこそ、そんな事も気付けなかったの? ダサ!」
「んじゃ、何してたか教えてよ。あたしの追求躱すなんてしょうもない事はしないんでしょ? つまりそれは追求に応じるって事よね?」
「当ぜn……え? あれ?」
 なんか私が想定よりだいぶ違う展開になっているような……。疑問と不安が沸き起こる中、ルーシーが間髪入れずに言い迫ってくる。しかも、私の尊厳に関わる言葉を混じえて。
「なぁんだ、やっぱ嘘なんだ。第九席代行は嘘つきなんだ。それとも、狸だから嘘つきなのかな?」
 私は狸であることに誇りを持っている。その誇りを傷付けられるような真似を黙って見過ごす事など出来ない。思わず強い口調で言い返してしまった。
「あ? 誰が応じないって言った! 応じるわよ、っていうか初めからそのつもりだったし! 狸差別やめてくれる!?」と。
「じゃあ、何してたの?」
「そりゃ――――」
 あれ!?

 ―――――やはりルーシーは因縁浅からぬ狐である。



つづく。

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