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きつねのかがりび(仮)

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 幼い頃から他者(ひと)には見えない『何か』が見え、他者(ひと)には聞えぬ『何か』が聞こえ、他者(ひと)には触れぬ『何か』に触れる事が出来た。『何か』とは何か。それは俗にお化けや妖怪、幽霊と呼ばれるものだ。別に望んで得た能力ではない。はっきり言って俺はこの能力を憎んでいる。なぜなら俺は幼い頃からこの能力が原因で、事ある毎に周囲の人間から迫害を受けて来たからだ。
 想像してみて欲しい。例えば俺が道端で妖怪に話かけられたとする。その妖怪と言葉を交わす俺が視えない他人の目にどう映るのかを。窓の外でこちらをジッと見つめてくる妖怪に怯えていたら、突然妖怪に頭を撫でられ驚いて大声を上げたてしまったら、どう思われるのかを。どれもこれも妖怪の視えない他者からすれば、ひとりで突然奇怪な事を始めるイカれた人間にしか視えないはずである。そして、そんなイカれた人間たる俺が異質で変質としか思われず、物心ついた幼少期からつい先月の中学卒業まで、同級生のみならず上級生、下級生、挙げ句はその保護者並びに教師の面々から、虚言壁だの中二病だのと数々のレッテルを貼られ、誹謗中傷、侮蔑の視線に曝されてきた事は想像に難くない筈だ。
 全く以て過酷で辛辣な境遇だと思わないか? 何度、己の才能を恨んだことか。
 だが、しかし! 
 そんな暗い過去にいつまでも囚われている俺ではない。人間というのは努力する生き物である。過去の失敗から多くを学び、未来の幸せに繋げる力を持っている。有史以来、人類が数々の栄華を修めてきたように、俺もまた、偉大なる先人達に習い、その過酷な境遇からの脱却に日々勤しんでいるからだ。
 この春、俺は中学卒業を機に長年慣れ親しんだ地元から適度に離れた街にある高校を進学先とする事で、過去の精算を図る事にした。俺の存在を知る者がいない土地ならば、黒歴史の悪評に振り回されることもなく、周囲との人間関係を正常化出来ると考えたのだ。
 実際、結果の程は上々であった。入学して数日、今のところ思惑通り、校内は疎か周辺地域ですら俺の悪評を知る者はいない様子だからだ。
 尤も真に留意すべき問題はここからなので安直な賞賛はご法度である。幾ら過去の黒歴史をリセット出来たからといって、妖怪との遭遇時に於ける対処法を誤れば、新たな黒歴史が紡がれてしまう。そうなれば元の木阿弥に他ならない。よって今後、俺は妖怪との遭遇時、周りから誤解される事のないような対処に努めなければならず、それこそが本題なのである。
 勿論その辺も抜かりはない。伊達に長年妖怪、幽霊といった怪異案件で苦渋を味わってきたわけではない。しっかりと対処法は用意した。
 その対処法とは、ズバリ無視(シカト)である。妖怪に出くわそうが、浮遊霊に声を掛けられようが、徹底的に彼らを無視し続ける。それにより、他人からの要らぬ注目を避けられるという寸法だ。
 なに? ずいぶん短絡的な発想?
 まあ、そう思って嘲り笑うやつもいるかもな。だが、そんなやつははっきり言って素人だ。どうせこの対処法に周囲からの視線を逸らす事以外の有用性を見いだせていないのだろうからな。
 断っておくが、これは突発的閃きでもなければ、浅はかなこじ付けでもない。長年妖怪事案に悩まされ続けてきた俺が、経験則から熟考を重ね、漸く辿り着いた結論である。素人の浅知恵と違い、実に洗礼された対処法なのだ。その辺、勘違いしないで頂きたい。
 この対処法には周囲の人間からの注目を避けられる事以外にも副次的なメリットが有るのだ。それは妖怪との遭遇機会を減らせるというものである。彼ら妖怪は、往々にして視えない人間よりも俺のような視える人間に対し、ちょっかいを出したがる傾向が強い。なぜ故そうなのかは妖怪でない俺には皆目検討もつかないが、とにかく過去に遭遇した彼らの多くがそうだったので統計的にそうなのだ。そしてそうした妖怪の、視えない奴より視える奴に群がり易いという習性を踏まえれば自ずと答えが見えてくる筈である。俺が妖怪を無視したとする。妖怪達は俺の事をどう思うか? おそらく彼ら妖怪は俺が視えない人間であると誤認するはずだ。となればどうだ? 視えない人間認定した俺に妖怪達は寄り付かなくなると思わないか? それは即ち妖怪との遭遇機会が減るという事に他ならないだろ。
 つまりこの無視作戦、俺が周囲の人間から注目され難くなると同時に妖怪との遭遇機会が減る、遂行すればするほど妖怪と疎遠になり人間関係の支障が減っていくという、好循環で相乗効果抜群な代物なのである。
 どうだ? 決して短絡的な発想ではないだろ?

 ともあれだ。こうして妖怪対策に万全――― とは言えないまでも八千全くらいは期した俺は、これまでの劣悪な環境から脱却すべく、人生をリスタートさせる上で絶好の機会たる高校生活の始まりを迎えたわけである。
 確信とは言えないまでも自信はあった。自身の境遇から脱却できると思っていた。そして実際にそれは上手くいっていた。少なくともアイツに出会うまでは―――――
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