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仙狐九尾会

#7 狸をいびる狐。

 ←#6 因縁浅からぬ狐。 →#8 ランチタイムにて。
「にゃはははは~、いい気味〜!!!」
 第九席執務室にけたたましい笑い声が響いていた。発信源は仙狐九尾会第八席、私にとって因縁浅からぬフェネック仙孤ルーシーである。彼女が盛大に笑う原因は単純明快であった。先の上司からのメールの一件を耳にしたからだ。
 だからルーシーに言いたくなかったのよ。
 私は肺に溜まった二酸化炭素を大きく吐き出して肩を落とした。
「もう気が済んだでしょ。邪魔だからとっとと出て行ってよ」
 私が不機嫌に言うと、ルーシーはいっそう腹を抱えて笑い転げた。
 マジ、ムカつく。笑い事じゃねぇっつうの!
 私は狸だが、それでもこれまで狐界のために奔走してきたと自負している。例え無理やり押し付けられた役職であったにしても、職務には真摯に向き合ってきたつもりである。もし本当に監視されているのであれば、そんな私に対する裏切り行為に他ならない。
「な〜に言ってるの、裏切りも何もアンタが狸であれば当然じゃない。古今東西、昔から狐と狸は仲悪いんだもの。大体、アンタ元は山奥でお姉様のフリして悪行を重ねていた性悪狸じゃない。寧ろヌルいくらいだわ」
 ルーシーは滲み出た笑い涙を拭いながら楽しそうにそう言った。
 私はムッとして言い返す。
「それはもう大昔の事だよ!」
 因みにルーシーが言うところのお姉様とは私の上司の事である。ルーシーは我が上司をお姉様と呼び異常な程に慕っている。その理由、経緯云々など細かい事に関しては今回は誠に勝手ながら割愛させて頂こうと思う。何せ私にとっては取るに足らない些末な事だからね。
 とにかく今は私の信用問題が重要なのだ。なにせ日々、私は狐界の中枢にて狐のために奮闘しているのだから。
「バカね、狸が狐界の中枢にいるからこそ監視が必要なんじゃない。裏切りは往々にして『なぜコイツが』って奴がするものだけど、『如何にも』な奴にされたら、それは狐の権威に関わってくるのだもの」
 そう言うとルーシーは右拳を胸の前で力強く握りしめながら、「流石はお姉様、わかってらっしゃる!」と感嘆するように言葉を震わせた。
「いや、だったらそもそも『如何にもな奴』を中枢に入れなきゃいいでしょ。私を代行に無理やり推したのは、そのお姉様なんだからね、解ってる?」
 私の異議もなんのその。ルーシーは呆れた様子で嘆息し、
「やっぱりアンタはバカね。今や九尾会はワールドワイドでグローバルなのよ。宿敵である狸をも招き入れる懐の広さを世界にアピールする事で、九尾会のイメージアップを図ろうとしているに決まってるでしょ。流石はお姉さまだわ!」
「そうかなぁ? イメージアップ狙って招き入れたなら、もっと待遇良くてもよくない? 私、毎日馬車馬の如く働かされているよ。これじゃあ、寧ろイメージ悪くならない?」
「それはアンタが余計な事を口にせず黙っていれば済む話でしょ」
 さも当然と言わんばかりにきっぱりと言い切るルーシー。
「え? それじゃ私は労働環境への不満も裏切りにカウントされちゃうの? そこも監視要項? 狸差別もいいとこじゃない? 私の狸権(じんけん)どこ行った?」
「何を今更。初めから九尾会(ここ)は狐のための組織でアンタは狸だと言っているじゃない。そんなもの期待する方が野暮でしょ。もっとこの場所で狸であるという事の意味を理解しなさいな」
 私は愕然と膝をついた。
「な……」
 確かに言われてみれば辻褄が合う……気がする。狸の私が九尾会にいるのはイメージ戦略のためで、ハードワークを強いられているのは狸だから。そして、狸は信用ならないから監視されている……というわけ……か?
「漸く悟ったようね!」
 ルーシーは私の鼻先を突くように指差して言い放つと、
「そうよ、ここ九尾会で狸のアンタに狸権(じんけん)はないの。だって、ここにあるのは狐権(じんけん)だけだもの。身の程を知りなさいな!」
 今度ばかりは如何に狸の尊厳を傷付けられようとも言い返せなかった。それが意味を成さぬ場所にいるのだと、痛感させられてしまったのだから。差別とは平等の下で批判される行為であり、元々平等の下にない者の受けるそれは区別でしかないのだ。
 打ちひしがれる私を見て、再びルーシーがケラケラと笑い出す。
 泣きっ面になんとやらだった。
 そんな折、「ピロリン!」と私のスマートフォンが場違いな音色を奏でた。
 それは『業務連絡②』と銘打たれた、本日二度目の上司からのメールであった。
「あらあら〜、お姉様からのお叱りなんじゃなくって?」
 ルーシーが嬉々として私のスマホ画面を覗き込んでくる。
 本来ならばプライバシーやら機密やらあるので、第三者に覗かれた状態で中身を確認するのは御法度だ。しかしながら傷心しきった今の私にはそれを気に掛ける余裕が無かったため、構わずアイコンをタップする。
 先程同様に件名の後は画面から溢れるように空欄で埋め尽くされていた。
 今度は何を言われるのか……。ウキウキのルーシーを尻目に、私は恐る恐るフリックする。
 …………………………………………………………………………………………………。
 三度ほど指を滑らせて現れた文章はこうだった。


『な~んちゃって ウソぴょん (・ω<)
 さっきのメール驚いた?
 ウソウソ あれウソ(>ω<)
 わらわ風狸のこと信じてるもん✨
 暇だったゆえ ほんの出来心じゃ
 ゆるしてちょんまげ🙏

 by 風狸ちゃんに絶大な信頼を寄せる美少女上司

 p.s.
 九尾会は出来た連中が多いから心配いらんと思うけど、もし風狸を狸だからという理由で迫害するような🦊がおったら、独りで抱え込まずに遠慮なくわらわに報告しろよ〜。
 そんなボケナスはすぐにわらわがフルボッコにしてやるからな〜 (●`・ω・)=O)`-д゜)ポカ』


「………………………………………………」
 読み終わった後、暫し沈黙してから私はゆっくりとルーシーに顔を向ける。ルーシーもルーシーで似たような動作をとっていたのだろう。タイミング良くお互いの目が合った。
 ルーシーはどことなく悲しげな顔で、何かを訴えるような眼差しを私に向けて来ていた。
 さらに沈黙すること約五秒……。
 私は「よし!」と短く言ってスマホ画面の返信アイコンに指を伸ばした。
 直後、得も言えぬ泣き顔のルーシーが「ぎぃやあぁぁ゛〜 ち゛ょっと待ってぇぇぇ゛〜」と悲痛な叫び声をあげながら私に抱きついて来た。


つづく。
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