仙狐九尾会

#9 八尾の威厳。

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 ルーシーは嘆いていた。
 自分はベテラン尾席と張り合わなければならない、と。
 ルーシーは怒っていた。
 その為に浪費しているのだ、と。


 そして、詰め寄られた私は―――――


「は、張り合わなければよくない……?」
 困惑しながら逃げ腰でそう言い返した。
 するとルーシーはすかさず追いすがるようにして、
「そういうわけにはいかないの! 尾席としての威厳に関わるんだもの!!」と鼻先まで得も言われぬ険しい形相で言い寄って来る。
 ルーシー!? 顔、近い、近い!!
「他と張り合ったところで威厳なんか得られないでしょ」
 私はほとんどテーブルに乗り上がっていたルーシーの体を両手で押し返す。
 しかし、
「んなこたぁー解ってるわよ!」
 ルーシーは押し返した私の手を振り払い、再び迫り寄って、
「でもね、私の威厳って他の尾席(奴ら)と張り合っていないと減るのよ! 解る? 減るの!!」
 ルーシーの気迫に押し負け抗うことを諦めた私は、逃げ腰のまま投げやりに訊く。
「そ……そうなの?」と。
 鼻息荒くルーシーが答える。
「そうよ! だって他の尾席(奴ら)がランチだの、酒の席だので事ある毎にポケットマネーをバラ撒いて狐たちを懐柔してるんですもの!」
 それ、ただ羽振りがいいだけで懐柔しているわけじゃ……との思いは置いといて、
「そ……それと威厳とどう繋がるの?」
 すると、ルーシーが険しい口調で、
「そんな場面に居合わせた時にあたしが財布を取り出さなかったらどうなるか、って事よ」
「えっと……つまり?」
「鈍いわね、いい? すぐに『八尾のルーシーってドケチだよね』とか『うわぁー、今回、八尾しか居ないのかよ、マジはずれだわ』って陰口を叩かれ始めるのよ! 威厳なんか見る見るうちに失われていくわ。っていうか、あたし八尾よ、狐界最高権力の一角よ。なのに呼び捨てってどういう事!? 大体、陰口なんだから本人の耳に届かないところでしなさいよ、バッチリ聞こえてるっての! 聞き耳立てるべくもなく聞こえてるっての!!」
 途中から誰へとも解らぬ唯の愚痴を零し始めた血眼のルーシー。苦労の程は窺えるが……正直、私に言われても対応に困る。
 ともあれ……世知辛いな、狐界。
 私が苦笑いを零していると、
「そもそも他の尾席(奴ら)も奴らよ! 可愛い後輩が居るんだから、気使ってちっとは自重しろっての!」
 未だ収まりがつかないのか、はたまた一度始めてしまったが故か、ルーシーは遂にその怒りの矛先を直接九尾会の同僚へと向け始めた。
「ちょっとルーシー、食堂(ここ)で余りそういう事言わない方が……」
 愚痴の矛先が狐界の最高権力へと向けられたのなら、ここいらで諌めておいた方が良いだろう。九尾会は形式上でこそお互いに平等という事になっているが、実際はルーシーが自らを(可愛いかどうかは別にして)後輩と呼ぶように、序列が無いというわけではない。如何に同じ尾席と言えど、この手の愚痴が他の尾席の耳に入った場合、序列最後尾のルーシーが一体どんな仕打ちを受けるはめになるのやら、分かったものではない。一応、因縁浅からぬ狸として、放っては置けないのだ。
 しかしながら、そんな私の気遣いとは裏腹に、ルーシーは愚痴を止めようとはしなかった。
「構わないわよ、どうせあの爺婆共がこんな食堂(庶民的な場所)に顔出す事なんてないんだから。金持ちはいつも優雅に外食よ。アンタだって、食堂(ここ)であたし以外の尾席見た事ないでしょ?」
「ん、まあ……そうだけど……でも――」
 私はチラチラと周囲に目を向ける。本人達はいなくとも、情報を届ける者は幾らでもいるでしょうに。
 それでもルーシーは動じなかった。そればかりか自信あり気に、
「大〜丈夫よ。そうならないために日頃から無理して金バラ撒いて威厳と人望を保っているんだから」

 ルーシー……たぶん、その威厳と人望は当てにならないよ。



つづく。
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