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仙狐九尾会

#11 一尾に睨まれた八尾。

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 宇迦之御魂神。
 お稲荷さんでお馴染み、各地に祀られている稲荷神社の総本山、伏見稲荷大社の主祭神である。
 一般的に稲荷神社は眷属として狐を従わせているものの、宇迦之御魂神自体は狐ではないとされている。
 しかしながらこれは間違いで、実は宇迦之御魂神は狐である―――――


「あらルーシーちゃん、少し顔色悪ない? どないしたん?」
 腰まで掛かる長い銀髪の清楚な女性が、決死の覚悟といった様子でようやっと振り返ったルーシーに、態とらしく眉を顰めておっとりと訊ねた。
 この銀髪清楚、人間で言ったら二十代といった容姿の女性は仙狐九尾会第一席、お稲荷様でお馴染み、宇迦之御魂神その狐(ひと)であり、私や周囲の狐を制してルーシーの背後に忍び寄ったのはこの御方であったのだ。
 要するにルーシーは同僚で先輩の尾席である当人の目の前で愚痴りまくっていたというわけである。しかもこの宇迦さんは九尾会屈指の古株で、傘下に稲荷神社を従えているという事もありその勢力も最大級、人間界で神に崇められる程に実力も折り紙つきな、九尾会のリーダー的存在だ。同じ尾席とは言え、ぽっと出のルーシーが面と向かって抗える相手ではない。
「う゛うッ、宇迦様……なぜここに?」
 ルーシーは声を裏返しながらそう訊ね返すのが精一杯であった。
「なぜ?……けったいな事訊くんね」
 宇迦さんはクスッと鼻を鳴らすと、柔らかな笑みを浮かべ、
「ここはみんなの食堂で今は昼時や、理由なんか訊くまでもないやろ。それとも、ウチがここに居たらあかんの?」
「いや……そういう……わけでは………ない…です…けど……」
 消え入りそうな声のルーシーに間髪入れず宇迦さんが、
「けど、なに?」
「……えっと…あの……珍しいな……と……思い…まして……」
「珍しい?」
 ずいっと屈むようにして宇迦さんが微笑みながらルーシーの顔を覗き込む。
「ひぎゃッ!?」
 ビクッと震えて奇声を漏らすルーシー。
 そんなルーシーを、宇迦さんはまるで捕食者が獲物を品定めするかのように注視する。
 それは傍から見ているだけの私や周囲の狐たちですら緊張して息の詰まる光景だった。
 果たして当事者の心労は如何程のものだろうか。
 顫動するルーシーを眺めながら、私は只々事の推移を見守ることしか出来なかった。
 暫くこの緊張感溢れる二匹の睨めっこが続いた。と言っても実際には時間にして一秒にも満たなかったのかもしれない。
 とにかく時間の感覚が狂う程に重苦しい静寂の後である。
「珍しいか……」
 そう言って宇迦さんはゆっくり体を起こすと、
「そやな、確かにウチがここに来るのは珍しいかもなあ」
 相変わらずのおっとり声であったが、これまた妙な緊張感を懐かせる雰囲気なのも相変わらずで、まったく安心要素とはなり得ない。
 おそらくルーシーも似たような心境なのだろう。首振り人形が如く「ですですです」と同調してみせるのがやっとといった様子だった。
 そんなルーシーに再び宇迦さんは顔を寄せる。
「ところでルーシーちゃん」
「ひゃい!?」
 背筋を伸ばして直立不動になるルーシー。
「先刻(さっき)なんや楽しそうに話しとったな、風狸ちゃんと。ウチもそのガールズトークに混ぜてくれへんか?」
「え゛!?」
「いやな、今どきの若い女子が何話しとるんか気になってん」
 そう言うと宇迦さんはカッと瞳を大きく見開いて、
「なにせウチ、ババアやからな」
「えっと……あの……その……」と口籠るルーシーの顔色がみるみるうちに青冷めていく。
「ウチな、ババアやろ? せやからな、若い子の話題も頭に入れときたいんよ。そやないとほら……若い子にKY呼ばわりされてまうやろ?」
 宇迦さんはそう言ってルーシーの両肩をガシリッと手で掴み、
「な、“若い”ルーシーちゃん」
 それはとても穏やかな口調であったが、見ているだけでも身震いしてしまうような冷たさがこもっていた。
 だからだろうか、観念したかのように覇気のない声でルーシーは自ら確信へと迫るのだった。
「い、いつから……いらしたん…ですか?」
「ん? なんでそんな事訊くん? 質問の意味が解らんわ。ただウチは滅多に注文がかからないスペシャルランチを、風貍ちゃんが美味しそうにほうばる姿が可愛いな思て眺めていただけやで」
 つまりは初めからルーシーの暴言は聞かれていたわけである。
 酸素不足に陥った金魚鉢でもがく金魚のように無言で口をパクつかせていたルーシーが、ヨレヨレと椅子から滑り落ちるようにして床に跪き、臥して許しを乞いたのは程なくしての事であった。



つづく。
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