FC2ブログ

野狐喫茶の楓ちゃん

#9

 ←#8 →#10
 それはいつものように小屋作りの続きをすべく、野狐喫茶傍らにある余剰すぺーすへと足を運んだ時じゃった。

 何処からともなくわっちの耳にそれは届いたのじゃ。

 みゃあ、みゃあ……みゃあ……。

 それはか細い声じゃった。

 わっちは思わず聞き耳を立てたね。

 しかもきゅうとな狐のもふ耳をね。

 わっちは狐で耳が良い。

 ゆえにすぐに声の出処は判明したのじゃ。

 声は小屋の資材が無造作に置かれた、余剰すぺーすの隅っこから聞こえておったじゃった。

 わっちは忍び足で近づいて、声のする資材の陰部分を覗き込んだのじゃ。

 するとそこに、黒い毛玉が蹲っておった。

 それは小さな小さな毛玉で、それこそわっちの手のひらに乗ってしまいそうなほどじゃった。

 わっちは毛玉に向かって言ってやった。

「こりゃ、ここはわっちの縄張りじゃ。出て行ってくれんかの」と。

 毛玉がわっちに気付いて顔を向けた。砂まみれの顔じゃった。

「迷惑じゃから出て行ってくれんかの」

 わっちはもう一度言った。

 すると毛玉は有ろう事か、よちよちとわっちに向かって歩いて来よった。

 みゃあみゃあと一層声を張り上げてすり寄ってくる黒い毛玉。

 わっちは思わず後ずさりしてしまった。

「わ、わ、わっちは狐じゃ! それ以上近づいたら喰ってしまうぞ!」

 猫なんぞに好かれたら狐の名折れである。わっちは些か声を張り上げて威嚇してやったのじゃ。

 じゃが毛玉のやつは意に介さないのか、はたまた言葉の意味がわからないのか、歩みを止めずに近づいてくると、わっちの足先にしがみついて来よったのじゃ。

 つぶらな瞳で見上げながら、みゃあみゃあ泣きわめく黒い毛玉。まだ足腰が弱いのか、滑り落ちそうになりながらわっちの足に何度もしがみつこうと前足を伸ばして来よるから、足先がこそばゆかった。

 暫くしたら飽きるかと思い放って置いたが、毛玉のやつめ、一向にその気配を見せなかったのじゃ。

 仕方がないのじゃ。

 根負けしたわっちはそっと毛玉のやつをすくい上げてやったのじゃ。

 決してしがみつこうとする毛玉の力が段々と弱くなってきていた気がしたからではないのじゃ。

 わっちはそんなにお人好しな狐ではないからな。

 飽く迄も根負けしたからじゃ、毛玉のやつがしつこかったからじゃからな、勘違いしないでほしいのじゃ。



――――こうしてわっちは動物病院を探す羽目になってしまったのじゃ。

 やれやれなのじゃ。

 そんなわけで、小屋作り、一時中断なのじゃ。



※これはフィクションです。
関連記事
スポンサーサイト



記事一覧  3kaku_s_L.png 未分類
記事一覧  3kaku_s_L.png 仙狐九尾会
         
#8 ←#8    →#10 #10

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
【#8】へ  【#10】へ