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仙狐九尾会

#18 定例会議①

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 九尾会のメンバーは月に一度集まって会議をする。所謂、定例会議というやつで、今日はその会議の日。
 然るに私は数日前から胃腸の調子が悪く、太田胃散を手放せずにいた。
 なぜなら九尾会を構成する九匹の狐たちは皆往々にして化物じみており、か弱き狸の私としては、何処ぞのフェネックを除けば共に居るだけで精神を鑿で削り取られる想いになり、それを想像するだけで私の胸には憂鬱が込み上げてくるからだ。
 はぁ……
 今日、何度目になるだろうか。普段とは違い着慣れないビジネススーツに身を包んだ私は会議室への道すがら、ひと目を憚らず盛大に嘆息してみせた。
「ちょっと……あからさまな溜息やめてくれる……。唯でさえローテンションなのに余計陰気が増すでしょ」
 そう漏らして半目を向けてきたのは、フランス人形が着ていそうなゴスロリ衣装に身を包んだ何処ぞのフェネックことルーシーであった。
「だってぇ……」
 私は愚痴っぽく言いかけてみたものの、その後の言葉は口から飛び出す前にぐっと呑み込んだ。現在ルーシーは私同様に鬱ぎ込んでいたが、その理由は私とは異なるものであり、さらにそれは私とは対局にあるものだったので、愚痴ったところで同情も同意も得られないと判断したからだ。
 ルーシーとはつい先程、ロビーでたまたま会った。互いに同じ場所を目指しており、それは言うなれば学生が登校時にばったりクラスメイトに遭遇するようなもの。よくある偶然であった。
 その時既に私は気落ちしていたわけだが、ルーシーはそんな事もなく、なんだったら寧ろ活力に溢れているくらいであった。
 そんなルーシーが彼女曰くのローテンションになったのは、私が我が上司の欠席を伝えた時であった。それはそれは見事な迄の変容っぷりで、まるで山の天気の移り変わりを見ているようであった。まあ我が上司はめったに仕事場に顔を出さない狐であり、ルーシーは我が上司を異常なまでに慕っている事を考えれば、その落胆っぷりは解らなくもなかった。
 しかしながら、たればこそ私は今の心境でルーシーと相容れる事が出来ないと察してしまうのである。
 なぜなら私が気落ちしている原因は定例会議に出席しなければならないからであり、それは我が上司が会議をバックレたのが発端だからである。
 要するにルーシーのは楽しみが奪われた落胆であり、私のは不幸が舞い降りた感嘆、根本的に違うというわけだ。
 もっとも、ルーシーもその辺は理解しているのだろう。
「いい加減に慣れなさいよ、初めてでもあるまいし」
 素っ気なくも先輩風を吹かすように私を睨んできた。
「初めてじゃないからこそだよ」
 私は短く答えた。
「それにしたって、そろそろ慣れろって話よ」
「無理だよ、あのヒトたちの威圧感ハンパないじゃん」
「気にし過ぎだっての。威圧感ったって、別にアンタに向けられているわけじゃないんだから、無視しときゃいいのよ。それに意識同調(シンクロ)した式神の使用が認められている事だし、半数以上が本狐(ほんにん)そのものじゃなかったりするでしょうに。人形相手だと思えばいいのよ」
「そりゃ、そうかもだけどさ……実際問題としてあのヒトたち、術のキレが良すぎて本物と式神の区別がつかないんだもん、割り切れないよ」
「だったら修行でも何でもして見分けられるようになりなさいよ。努力不足を言い訳にしなさんな」
「いくら努力しても一向に見分けられる気がしないって言ってるの。もー、そんなん言うんだったらルーシー、なんかコツとかあるなら教えてよ」
 ルーシーは目を反らして裏声混じりで答えた。
「………そ、そんなのアレよ、気合いよ気合い」
 どうやらルーシーも見分けはついていないらしい。呆れた私は、そうなんだ……、と素っ気なく返してやった。
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