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仙狐九尾会

#19 定例会議②

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 九尾会定例会議は本部ビル九階のフロアをまるまる使った専用会議室で行われる。ここはフロア全体に強力な結界が張られており、関係者以外は入室はおろかその存在自体を認知できないようになっているため、そもそもその存在を知る狐が非常に少ない場所である。かくいう私も初めて会議に出席する事になったあの時まで、本部ビルに九階というフロアが存在する事自体を失念しており、それを知らされた際には大変驚いたものである。
 そんな専用会議室へ向かうため、私とルーシーはエレベーターに乗り込んだ。
「ちゃんと入場許可証(専用ID)を持ってきているでしょうね? 専用会議室(あそこ)の結界は強力だから、九尾会のメンツですら一部を除いてID無しに認知できないんだからね」
 ルーシーがエレベーターの操作ボタンに手を伸ばしながら念を押すように訊いてきた。
 私はそっとブレザーの内ポケットに手を伸ばしてIDがある事を確認してから「もちろん」と答えて壁に寄りかかる。
「ならいいわ」
 ルーシーが9の字が大きく印されているボタンを押すと、重厚なエレベーターの扉が私達を異界へと誘うかのようにゆっくりと閉じ始めた。
 そんな折、
「あー待って! 待ってください!」
 皺のない如何にもな真新しい紺のスーツを着た栗色の髪のきつね娘が息を切らせてパタパタと駆け寄って来た。見たところ最近本部の何処かに配属された新入りといったところだろうか。まあ、エレベーター自体は普段遣いされているものなので、上階の何処かへ行きたい一般の狐なのは確かである。
 閉じかけた扉が途中で止まり、再び全開になった。
「こらこら遅刻よ、気をつけなさいな」
 エレベーターに駆け込み俯き加減でゼェゼェ呼吸を乱しながら、呑気に「ま、間に合った〜」なんて漏らしていた新入りと思しききつね娘に向かって、開けるのボタンを押して招き入れたルーシーが呆れるように嘆息した。本日の定例会議開始時刻は、一般業務開始より一時間遅れての十時である。かなり早めの到着を心掛けた私や、そんな私と共に居るルーシーよりも後から駆け込んで来たそのきつね娘が業務開始にギリギリアウトなのは明白であったからだ。
「ふぇっ!?」
 ルーシーに声をかけられたきつね娘はその顔を見るやいなやビクリと慄いて後退った。同時にぽふんっと三角の狐耳と新品の筆先をそのまま大きくしたかのようなフサフサの尻尾が彼女の頭と尻から飛び出していた。
 まあ、新入りと言わず若い狐が狐界のVIPたる九尾会メンバーから直接声をかけられるなんて事は早々ないので、驚嘆したのだろう。
 なんて初めは思ったのだが、些か私の読みはハズレていたらしい。
 きつね娘はカタカタと震えながら「は、はは、八尾様!? も、ももも、申し訳ありませんでした! ゆゆ、許してください、殺さないでください!!!」と、ルーシーに向かって土下座を始めたのだ。
 そっちか……。
 九尾会メンバーは皆一様にバケモノじみた狐である。それゆえ各々が色々と逸話や武勇伝を有していたりするもので、九尾会はその集まりであるがゆえ、一際強く畏怖の念が付き纏っていたりする。このきつね娘はそうした概念に囚われた典型例というわけだ。
「え、なんで!? ちょ、やめなさい! いや、やめて!! あたし遅刻ぐらいで殺狐なんかしないから! てか、同胞を殺した事なんかないからね!」
 ルーシーがきつね娘に負けないくらい取り乱して言った。
 まあ九尾会と言ってもそこまで非道な荒くれ者集団ではない。世間に流れている印象はあくまでも噂に尾鰭背鰭がついた結果である。そしてルーシーに至っては、メンバーの中でとりわけ清廉潔白を信条とする狐であり、さして逸話や武勇伝の類を持たぬ人畜無害なメンバーだ。自身の印象とかけ離れたキャラ付は御免被りたいのだろう。
 普段であれば面白そうなので放っておくのだが、今は定例会議が控えている。下手に時間を浪費したくないので私は助け船を出す事にした。



つづく。
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