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きつねのかがりび(仮)

五尾

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 俺は「では早速これから学校に向かいましょう」と言って立ち上がった。俺に呪いを掛けた憎っくき一つ目妖怪を捕まえるため、白面金毛九尾たまもの助力を確約させてから程なくしての事だ。
 俺の命はあと三日、あまりにも残された時間が少ない。やる事が決まり、その実行に目処がたったのならば行動あるのみである。こんな呪い(もの)は早急に取り除くのが賢明だ。幸いにして今から学校に向かえば、どうにか最終下校時刻前には辿り着けそうである。学校への出入りが自由なうちに事に取り掛かれるというものだ。(まあ例え間に合わず閉鎖されていたとて、校門をよじ登ってでも侵入するまでだが。)要するに差し当たり弊害は無いのである。俺の未来が掛かっているのに、やらない理由が何処にあろうか。
 しかしながら、そんな逸る気持ちの俺をたまもが穏やかな口調で制止する。
「まあ待て、落ち着くのじゃ」
 たまもは俺とは対照的に椅子にゆったりと座ったままだった。
 出鼻をくじかれる格好となり俺は些か困惑した。
「俺、何かおかしな事言ってますか? 目的は一つ目妖怪を捕まえる事で残された時間は僅か。この状況で現場に向かうのは至極真っ当に思えますが」
 訊ねる俺にたまもは「これだからトーシロは」と呆れた様子で古臭い死語を混じえて答えた。
「だったら、そのトーシロにも解るように説明してくださいよ」
 素人たる俺はそう返した。
「えーとじゃな……」
 たまもはキョロキョロと辺りを見回すと、店の壁にかけられた古めかしくも洒落た感じの振り子時計を見つけて指をさす。
「時刻を見よ、間もなく日暮れじゃ」
 振り子時計の針は確かにそんな時刻を指していた―――が、それがとうしたというのだ? 既に俺は、そんな事は承知している。その上で時間的節約のために早急な行動を進言したのである。
「うむ、時間が惜しいのは解るし、迅速な行動を望むのも解るよ。じゃがな、今大事なのは確実性なのじゃよ」
「確実性?」
 たまもは「そうじゃ」と頷く。「お主は時間が限れれている事から一つ目を捕まえるチャンスが少ないと思っておるようじゃが、それは間違いなのじゃよ。今回の場合、厳密には少ないのではなく、ほぼ一度しかないとみるべきなのじゃ」
「え、ワンチャンスって……それは一体どういう事で?」
「二度目はないからじゃよ。一度捉えようとして万が一取り逃がした場合、その一つ目の妖は当然の如く警戒心を強めるじゃろうて。そうなれば、奴は妾たちから距離を取って接近を許さなくなる。残り時間の少なさを考慮すると、そんな奴相手に再び遭遇するのは極めて困難と言える」
「だから、最初のチャンスで失敗は許されない、チャンスは一度きりと」
「うむ。じゃから最初のチャンスでしくじらぬように最大限注意せねばならぬのじゃ」
 俺は腕を組んで暫し考え込む。いまいち理解が及ばなかったのだ。
「言いたいことは解るんですが……それと今から行動に移すのを待つ事がどう繋がるんですか? 確実性と関係ないように思えるのですが。それに一つ目妖怪がいつまでも学校に留まっていてくれるとは限らないでしょ。だとしたら追跡が遅れると、そもそもファーストチャンスまで漕ぎ着けなくなる恐れが高まりませんかね」
 今度はたまもの方が腕組みをしながら眉間を寄せ目を閉じた。
「お主はアレじゃな……基本阿呆じゃが時たま鋭いよの……」
 褒められているんだか貶されているんだか分からない物言いであった。なんとも反応に苦慮してしまう。
 そんな俺を余所に、たまもは再びその煌めく紅色の瞳を覗かせて言った。
「まず一つ目がお主が襲われた場所の付近に留まっておらず何処かへ行ってしまっている可能性についてじゃが……それは考えるだけ無駄じゃ」
 何を言っているのか解らなかった。チャンスは一度とまで公言する程の難題の、その一度目が無くなりかねない問題である。無駄と言えるほど、瑣末でもなかろうに。
「さすがに無駄って事はないんじゃ……」
 するとたまもは改まった顔でテーブルのグラスに目を落とした。
「無駄なんじゃよ。その場合、お主はすべてを諦めねばならんからの……さすがに今から残り三日で何処へともなく遠くに消えた妖を見つけ出すのは、妾をもってしても時が足りぬというものじゃ。んな最悪な事態は考えるだけ無駄じゃろ?」
 俺は愕然としてたまもの顔を見つめた。
「そういう事は先に言ってくださいよ。だったら尚の事、急いで学校に戻らないと!」
「いや、じゃから今更遅いと言っておるじゃろ。それにそう心配せずとも平気じゃよ。お主のような極上の獲物を狩れる場所をそう安々と捨てるとも思えぬ。十中八九その一つ目はお主が襲われた場所の近辺にいるじゃろうて」
「しかし、万が一という場合が……」
「じゃから大丈夫じゃて。そんな事よりも確実性の話じゃ」
 俺の万が一がしれっとそんな事扱いで済まされた。不本意極まりない事だ。だが、既にそんな事扱いとして処理したたまもがそれを気に留める道理はないのだろう。彼女は構わずに話を進める。
「妾、チャンスを潰さないためには不測の事態をなるたけ起こさないようにするのが重要だと思うのじゃよ」
 たまもは得意げに右手人差し指を突き立てていた。
「――で、間もなく日暮れなわけじゃ。つまりは直に夜が訪れるという事。夜は妖の時間じゃ。辺りが闇に包まれれば妖共は皆活発に動き出す。中にはたちの悪い奴もおるじゃろう。特に街中とは言え学校なんて怪異的にベタな場所にはな。そんな連中の邪魔が入るのは事じゃと思わんか? いや、思うとも」
 完全に万が一の可能性はなかった事にされているわけだが―――。
「うぅ……確かに」
 俺は苦虫を噛んだかのように悶ながらも納得するしかなかった。幼い頃から妖怪、怪異に悩まされてきた俺は、たまもの言い分を否が応でも理解できてしまうからだ。そして、それが今となっては先程の万が一の可能性より優先されるべきであろう事も。可能性の著しく低い事に固執して、そこそこ有る可能性を手放すのは愚の骨頂に他ならず、助かる為には避けねばならない事である。
「じゃろう!」とたまもが思わず魅入ってしまいそうになるような満面の笑みというやつを見せて声を上げた。「そういうわけじゃから、今日のところは逸る気持ちをグッと堪えてじゃな、明日、邪魔の入らぬ昼間に一つ目を捕まえようではないか、とそういう事じゃ」
 俺は少しだけ逡巡してから観念するように言った。
「わかりました、それでお願いします」
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